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【Works 40】

登り軒天の家

福知山市 2018.3

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登り軒天の家・・・その名の通り、普通は外壁面から屋根の先端、軒先に向かって、下るかたちとなる軒天(フラットの場合もあるが)が、逆に、登るかたちとなっている家なのである。かたち、形態は、自然派生的な、発想から生まれている、、、かたちありきの、結果でのかたちでなく、そこには、理由、意味合いがあるのである。

敷地は、新しく造成された、いわゆる住宅地、新しい家が建ち並ぶのである。そんな、一角に位置取る。着工当初は、空き地であった土地が、住宅によって埋まっていく。逆に言えば、個々の住宅によって縁取られた、敷地なのである。そんな、環境の中、内部空間に居ながらにして、少しでも多くの、自然の光の移ろいが、感じ取られる仕掛けとしての、登り軒天なのである。。。いわば、外的要素である、太陽の光。その光は外壁に当たり、そのバウンドした光が軒天に、当たり、乱反射され、内部空間に、そして、まわりに、光として、影響を与えるのである。

 

外観はミニマムなボリュームとした、内部空間の在り様がそのまま、外部の形態となるのである。色調も抑え気味のほどよい色目が寄り合う。ファサードである北面と、反対側の南面の2階部分の外壁、そしてその外壁につながる登り軒天は、ざらりとした風合いが感じられる、山砂掻き落としとした。左官の技法のひとつ、掻き落とし仕上げ、左官屋さんに、腕をふるっていただいたのである。山砂と、リシンを練りこんだものを平坦に塗り整え、一晩置き(冬は)、剣先のような道具で、表面を掻く、掻き落とす、そして、コテで塗った見え様から、風合いが一変するのである。面に細かな凹凸が出来、なんとも、深みのある風合いとなるのである。遠目からではわかりにくいが、近寄ってみれば、よくわかる。夜、照明の光が当たると、なおのこと、、、なかなかの風合いとなったのである。そして、内部空間とつながる、玄関戸、その部分の壁、庇の軒天、南面のデッキ廻りの外壁、庇の軒天は、木板張りとして、木の風合いが感じられるようにした。内部の木の空間に誘う、板張りなのである。外観のワンポイントとなっているのである。そして妻側、東西の屋根の出はなしとし、外壁は雨風に強いガルバリウム鋼板の小波縦張り、上から下まで継ぎ目なし、としたのである。こちらは、板金屋さんに、腕を振るっていただいたのである。屋根の出をなしにしたのは、出来るだけ太陽の光が窓から入るようにという旨なのである。窓から雨が入りにくいよう、全ての窓上には、当社定番のアルミ製の小庇を付けているのである。

 

家のモジュール、、、柱芯と柱芯の間の基本グリッド寸法は、当社は、本来はメーター、m、いわゆるメーターモジュールなのだが、今回は特別、970mmとなっている。これは敷地のサイズと平面プラン、建物全体の平面ボリューム、境界からの距離等の兼ね合いから、導き出された寸法なのである。この家は、970mmグリッドによって、できているのである。

 

内部のプランは、1階は北側に水廻りを集約し、広めのウォークインクロゼット、そして敷地の奥である南側がLDKとした。LDKは、2階に対しては階段、吹抜によってつながる。外に向かっては、大開口の窓も設け、デッキ、そして、板塀で囲まれた、庭へとつながる、、、かたちとなっているのである。2階は、いわば、ホール、部屋というかたちだが、一部、板製の取り外しできる壁とし、将来において壁が可変することもできるようにした。2階は全て勾配天井にし、窓上から、勾面が始まるようにし、高低の高さのバランスがほどよくなるようにした。1階も含めて、高すぎない、、、高さを抑えることにより、落ち着き感と同時に、平面的、立体的に、広がりが感じられるようにした。

内部の見える部分、いわゆるインテリアの素材はまず、木を使う。木造なので当然と言えば当然なのだが、全て、本物の木、無垢材を利用する。木構造のいわば、部材である、柱、梁は、どちらかと言えば、限定して見えるかたちとした。(収納内等は別として)柱は、1階のLDKの2枚の大開口の窓の戸先が寄り合う部分の、太めの柱と、2階の2枚の縦滑り出し窓が連続する部分の窓と窓の間の柱の一部なのである。梁は、2階の床梁のLDKの天井より下に下がってくる部分と、吹抜の2本の表わしの梁、2階はつなぎ梁として必要な梁で、2本のみとなっている。いわば、部分的に突出している見え様、、、構造を支持する材の一旦が見えるかたちとなったのである。構造材は、京都府内産材、いわば、地元の材を利用している。そして、経年によりの縮みや反りを少なくする為、しっかりと乾燥を施した材を使う。乾燥は、木の本来の特性を生かす(ねばり、脂身、匂いを出来るだけ残す、天然乾燥に近い状態)乾燥の方法で、60℃~70℃の温度でゆっくりと乾燥させる中温乾燥を施し、じっくりと養生させた、材木屋さんの長年の経験の上の、目と手が入った材なのである。
床にも無垢の板を使う。1階は温水式の床暖房をするということでロシア唐松厚み15mmの巾90mmのものを張っている。2階は地元の材の杉板厚み15mm張りとした。壁は沖縄で生産している、月桃という植物を使った丈夫な壁紙、月桃紙を張り巡らす。天井は、メインは杉板とし、部屋は月桃紙とした。

 

照明は極力、器具の存在を感じさせないようにした。いわば、光、あかりがあればいいのである。ダウンライトも、器具の発光感を低減するかたちのものとし、スポットライトも、ミニマムなサイズのものとした。(外部1ヶ所、リビングを除いて)照明は、光が当たったところの、面の明るさによって、まわりに明るさをもたらす。そのことを念頭に入れ、極力少ない箇所で、必要な明るさが充足できるよう配置している。光をまず、壁や天井にあて、そのバウンドする光で、必要な範囲を明るくするように考えるのである。そうすることで、光、そして空間全体の感じが、まろやかになるようにした。スポットライトや、ユニバーサルダウンライト(照射の角度が変えれるダウンライト)を使うことにより、シュチレーション、シーンによってなど、光を当てる部分が変えられるようにした。電球はLEDの電球色で統一し、(白熱灯はよりいいのだが、熱と消費電力を考えて、、、)、温かみのある光としている。

 

既製品を使わず、空間に合わせてつくる。まず、玄関ドアは、一からつくっている。玄関はいわば家の顔、住まい手はもちろん、お客様も、まず最初に目前に対峙するものなのである。ひと、そして家によって個性がある、、、そのあたりをも考え、デザインし、つくる。もちろん、建具屋さんの作となる。ガラスは、真ん中に、一筋のみとする。上のFIXガラスと合わせ技で、このかたちとなったのである。特に夜、よく見ると、ローマ字の一文字が浮き立ってくる、のである。面材は壁面、軒天と同じ杉板とし、ラインも揃える、、、それらと、一体化させているのである。

内部建具も造り付けとなっている。引戸、開き戸、引き出しに至るまで。スペース、造作にあわせてつくる、素材、サイズ、金物等のバリエーションは無限、適材適所でつくるのである。出入り口は、引戸とする。それも、吊戸とする。フルオープンになったときは、壁に沿うかたちとなり、全く邪魔にならない、、、開けっ放しの状態で、建具の存在が気に掛からないようするのである。収納の扉は、閉まっている状態が前提でつくる。場所によっては、建具が合わさって、ひとつの壁面となるという想定でつくっている。

キッチンも一からつくる。無限のバリエーションとなる。各パーツを集積させるかたちとなるが、空間や使い勝手に連動しながら、お持ちの家電等も含め、すべてがピッタリと納まる様に、つくった。
面材は、杉の集成パネル、Jパネルの薄手のもの(厚み24)を使っている。引き手、ソフトクローズの引き出し金物、手製のスライド式包丁差し(まな板入れ)、シンク下はオープンにし、メンテナンスし易いようにする、(床下点検口も設置)ダストボックスや、もろもろのものが置けるようにする、、、など、当社定番の納まり、内容となっている。もちろん、ガスコンロ、食洗機、レンジフード等の機器も、無限の中から(ほぼ、どのメーカーでも選択可能)、選定されたものが、組み込まれ、納められている。

 

設備的な機能性もあるが、空間にも機能性を持たせる。まずは、空間の拡張性、、、限られた空間、ミニマムな空間をより広く、拡がりが感じられるように、数々の仕掛けを設けている。床に目をやると、板の張方向が何気なく目に入るのだが、視覚的に拡張したい方向に張られているのである。ローカとLDKのつながり、2階のホールから部屋へのつながり、基本的な考えは、空間の長手方向に張るのであるが、場合によっては変わるのである。知らず知らずというか、感覚的に、視覚の流れが助長されるのである。天井の板の張方向も床と同調させると、なおのことなのである。
吹抜も、大いに空間を拡張させてくれる。1階と2階の壁面が、吹抜があることでつながり、ひとつの大きな面となり、内部空間全体のつながりを、意識させるのである。吹抜の上には、大きめの窓を設け、1階にも自然の採光をもたらす。1階からでも、空がうかがえる、外の環境へとつながるのである。1階と2階がつながる壁面を大きなキャンバスとと見立てて、太陽が織り成す、光と影の移り変わりを見るのも、なかなか趣きがあるのである。
内部空間と、そと、外部空間のつながりも大切なのである。LDKと庭のつながり、内部、サッシ(窓)、軒下空間(デッキ)、庭、そして、板塀という、内から外へのつながり。板塀があることで、庭が少し囲まれた感じになり、プライバシー性が高まる。板塀、庭がひとつのレイヤー、、、緩衝体となり、LDKと庭とのつながりも、オープンにできるようになる。そして、サッシも、サッシがあることを感じさせない納めとし、いわば、LDKという空間が、板塀まであるというふうに、意識的、無意識的に感じられる、、、空間が拡張されるのである。夜、あたりを少し暗めにして、スポットライトで板塀を照らして、室内からみると、より感じられるのである。

 

風を呼び込む窓。各部屋、スペースにおいて2面は窓を確保する。縦滑り出し窓、いわゆる開き窓とし、開口しているとき、窓面に当たった風が、室内に入ってくる。そして、その風がもう1方向にある窓から出て行く、、、風の流れを考え、窓の開口する向き、位置取りを考えて設置してある。特に東、西面の窓は家と家との間を通る風をも、キャッチするのである。1階のローカの突き当たりのにある、洗面スペースの天井沿いのルーバーも、南側の窓等から取り込んだ風が抜ける窓となる。ローカが、風の道となるのである。